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口腔内スキャナーを用いた補綴治療について

戸越銀座駅前歯科

院長 澤田 憧

今回は口腔内スキャナーを用いて補綴治療をする際の注意点と今後の展望について話していきたいと思っています。現在、口腔内スキャナーのスキャン深度は22mm(Aoralscan3の場合)と深い位置までスキャンすることが可能です。しかし、実際の臨床において歯肉縁下のスキャンは歯肉軟組織の可動性や歯肉溝滲出液の影響もあり、口腔内スキャナーでは難しい部分があります。しかし、歯肉圧排や歯肉切除、プロビジョナルレストレーションを併用していくことで歯肉縁下でもしっかりとした印象採得をすることが可能です。

口腔内スキャナーの印象で注意しなければならない点は①歯冠形成の形態を考慮すること、②形成時のマージンが明瞭化されていること、③徹底した防湿、この3点であると考えております。①についてはCAD/CAMで製作する素材が破折しないような形態にすることと口腔内スキャナーで読み取りやすい形態にすることです。具体的にはラウンドショルダーまたはディープシャンファーで形成するのがよろしいかと思います。エッジ(直角な形態や尖った形態)を形成してしまうと、スキャン精度が悪くなり、不適合補綴物の原因となります。また、クリアランスもきちんと確保しないと破折の原因となるため、全体的に1.5~2.0mmの厚みになるよう形成するのが望ましいです。②において、マージンが明瞭化されていないと歯肉とマージンの境界が不明瞭になり、精細度が悪くなることで、正確性に欠けてしまいます。歯肉切除や太い歯肉圧排糸を用いることで、しっかりと歯肉縁上にマージンを明示することが大切です。歯肉切除は歯周病のトリガーになる恐れがあるため、適応する際は十分に考慮しましょう。マージンは肉眼で見える程度には明示しておくとスキャンもしやすいかと思われます。③について、口腔内スキャナーと言うのは乱反射に非常に弱いです。上顎、下顎、咬合のスキャン前に十分にエアーブローを行ない、余分な水分を飛ばすことをおすすめします。

補綴物を製作するにあたって、現在は技工所のデジタル化も進んでおり、製作方法にバリエーションが生じています。補綴物を製作する際に技工士にお願いしている先生は医院の模型がどのように作られているのかしっかりと確認をとり、連携を図ることが重要です。それによって行なう処置が若干変化しますし、精度にも影響してくるので、とても大切です。

ここでは、当院で歯肉切除後に口腔内スキャナーにて光学印象を行なった患者を例に見ていきます。患者は右上2,5,6の歯頸部の補綴物不良、審美不良を主訴に来院。右下5,6,7の材料と色を合わせたいとのことでジルコニアクラウン(B1)を製作することとしました。まずは適合の悪い右上5から治療が開始となりましたが、補綴治療を何回かしている歯ということもあり、残存歯質が少ない中での治療となります。生物学的幅径を考慮しながら歯肉切除を行い、歯冠形成後に十分に止血した後に光学印象を行ないました。その後プロビジョナルレストレーションを使用し、しばらくしてから補綴物の装着を行なっております。口腔内スキャナーでもここまで綺麗な補綴治療を行なうことが可能ですが、補綴物の適合状態は歯科医師の追加で行なう手技によって大きく左右されます。いつも丁寧な治療を心掛けることがなにより大切だと思っております。

患者様からの感想を聞くと、いままでの歯医者ではここまでやってくれる先生はいなかったとのことで、ものすごく満足され、他の歯についても今後当院での継続治療を希望したいとのことでした。このように患者さんとのコミュニケーションツールとしても使用することができるので、今後のSHINING3D社のバージョンアップに期待しております。口腔内スキャナーにおける咬合状態はあくまで参考程度として使用しておりますが、接触点の多い個性正常咬合だと咬合紙の厚みやワックス、シリコーン等の材料もかみ切れてしまい、正確な咬合調整が困難となるため、こちらも今後活躍していく可能性があります。

最後に、今後の口腔内スキャナーの展望についてです。口腔内スキャナーのスキャン深度が深くなれば、根管内の破折や異物発見の診断に応用できる可能性。咬合の再現性が高くなり、口腔内スキャンだけで咬合状態を確認できるようになる可能性。正しい色調を取り入れることができれば、シェードテイキングに応用できる可能性等の様々な治療に応用できることが期待できます。歯科医師はこの時代の流れに追いついて治療していくことも重要だと考えております。

口腔内スキャナーで得た補綴物装着前の咬合接触点データと、補綴物装着後の実際の咬合接触点を比較した画像。

左:補綴物装着後の写真  右:装着前の補綴物

口腔内スキャナーを用いて取得した光学印象のデータ

左:補綴物装着前の口腔内写真  右:補綴物装着後の口腔内写真

補綴物装着後の口腔内写真(正面)  口腔内スキャナーを用いた光学印象